• 県有林「小金沢シオジの森」及び周辺の森林をフィールドに、様々な森林体験プログラムを用意しています。

2021年4月18日、大月市民会館において「シオジ 森の学校」発足15周年記念シンポジウム「『小金沢シオジの森』のこれまで そして これから」が開かれました。会場には、「シオジの森」に関心を持つ市民や「森の学校」発足以来の関係者等約50名が集まりました。

山梨県の「森林文化の森」にも指定されている「小金沢シオジの森」ですが、2006年の発足当時の森の姿と比べるとそれが大きく変化していることに私たちスタッフは心を痛めています。森の変化はシオジ林を囲むように茂っていたスズタケが枯れることから始まりました。以下、私たちが見ている森の変化は次の通りです。

  • スズタケが枯死
  • 森の中心を流れる長沢の水量減
  • コマドリやウグイスなど藪の中に巣を作る野鳥の減少
  • シカによる下草や樹木の食害
  • シオジの実生の減少
  • ニリンソウ・フタバアオイなど草本類の減少
  • ハシリドコロ・バイケイソウ・ドクダミなど毒草類の増加
  • 倒木〈サワグルミやシオジ、ミズナラなど)の増加
  • 土砂の流失
  • 遊歩道に枯れ葉が堆積

数年前からスタッフ会議の席上において、このまま森を放っておいてよいものか、深山幽谷の世界に入り込むようなかつての鬱蒼とした森を取り戻すことは出来ないものか、といったことが話題に上っていました。そこで、今回学校発足15周年記念イベントとして森に携わる識者から意見を伺う機会を持つことになりました。数回にわたる話し合いを経てシンポジウムの趣旨を次のように設定しました。

・ 長沢沿いの自然条件はシオジの成長にとって他の樹種より勝っていたのであろう。数百年をかけて作り上げられたシオジ林の発生は他の動植物を交えた生態系となって今日まで存在してきた。
  しかし、これまで見て来たように、ここ10数年のうちにシオジ林を巡る生態系は大きな変化を起こし森の姿を変えようとしている。
 自然の摂理に委ねるべきなのか、また、保全することにより現在の生態系を維持しようとするのか、保全することの是非と、保全するためにはどのような方途が考えられるのか、今日は識者の皆さんにお集まりいただきこれからの『小金沢シオジの森』のあるべき姿を探ってみたい。

シンポジストには「森の学校」の活動を陰に陽に支えてくださっている次の方々に登壇していただきました。

  小松澤 靖 氏 (山梨県富士東部環境部県有林課 課長)
  長池 卓男 氏 (山梨県森林総合研究所 主幹研究員)
  長田  惠   氏 (日本山岳基金 事務局)
  萩原 康夫 氏 (昭和大学教養部 准教授)

コーディネーター  天野 文義 (「シオジ 森の学校」 スタッフ)

森林インストラクターとしても活動されている小松澤氏からは、学術参考林としての「小金沢シオジ林」の価値について触れていただいた後、「乙女高原」の取り組み事例を引き合いに出され、植生遷移の極相となっている「シオジの森」の今後を検討する際の難しさが話されました。乙女高原は森の遷移を止めることを目標に人為的に草原を維持してきているが、極相状態となっている「シオジの森」の場合、極相が崩れ始めた原因の究明と、あるべき今後の姿(目標林)の検討が求められるということです。

 シオジ林における鹿の食害調査を指導してくださっている長池氏は、冒頭、「鹿の食害は止めることが出来る」と結論づけました。しかし、それには予算と人的支援など多大な物と人との関わりが必要になってきます。さらに長池氏は、そもそも食害をふせぐ必要はあるのか、何に対して防ぐのか、何で防ぐのか、益はないのか、といった根源的な問いを投げかけました。鹿の食害に寄せて、私たちが「守るべきもの」は何なのか、そこを見定める必要を問うてくださいました。

 2010年に設立された「日本山岳遺産基金」事務局を務められる永田氏は、日本全国の「森の保全」に取り組む団体の活動内容を紹介してくださいました。高知県の「三嶺の森」、北海道日高地方の「アポイ岳」、鳥取県「大山」、長野県「霧ヶ峰」、山梨県「三つ峠」は、それぞれの守るべき目標を見定め、その保全に取り組んでいるということです。保全の対象は森や里山や草原であったり、そこでしか見られない稀少植物であったり、何を守るのかが明確になっている点に特色がありました。

 「森の学校」人気講座の一つ「森で虫探し」の講師をお願いしている萩原氏は「森の土壌動物はシオジ林にどう関与するのか?」の視点から、土壌動物は森の物質循環の要である、と話されました。地上の哺乳動物、鳥類、昆虫など多くの動物が互いに関わり合いながら生きているのと同様に地中にも数え切れないほどの動物が生きて、植物の枯れ葉・枝・動物の死骸などを無機物へと分解してくれている。彼らの存在なくして植物の成長はあり得ない。萩原氏は土壌動物にとっての生息環境の変化は森の有り様に大きく影響を与える、とまとめられました。

四氏の提言を受けて、参加者を交えた意見交換にはいりました。一度や二度の入山ではわからない森の変化に、一般参加者は驚かれたのではないかと思われますが、森を守ることの大切さ、とりわけ「シオジ林」を守る意義について参加者から意見が出されました。シンポジストからは、「シオジ林」は原生林であるという認識が通っているが、実際にはこの森も適度に人の手が入り守られてきているんだ、ということを忘れないで欲しい、と補足の説明がありました。

 もとより、結論を出すためのシンポジウムではありませんが、これからの「小金沢シオジの森」をめぐり、如何に関わっていったらよいか、「今後の目標を見定めよ」という四氏の提言は私たちの胸に強く刻まれるシンポジウムであったと思います。(文責 天野文義)


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