「小金沢シオジの森へ行ってみたいのだが」
と、尋ねられることがある。
現地までの行程と交通手段を知りたいとのことだ。
説明を聞き、勇んで出かけられるのかと思いきや、なかには躊躇される方もある。
理由は、単純。眺望を期待できない見知らぬシオジやらの群生地を往復する山行は、「うまみ」がないと判断なさるようだ。まだ見ぬ森を歩く「期待値」に比べれば、コスト・パフォーマンスが大きすぎるらしい。
確かに、ガイドブックによれば、雁ヶ腹摺山や黒岳の情報は得られる。ところが、小金沢シオジの森など、まったくの無名の地。何一つ手がかりは得られない。それゆえ、「秘境」とのニックネームをつけてくださった大月市内に住まわれるファン?の方もいらっしゃる。
それはそれとして、初めての方に、小金沢シオジの森 長沢群生地までの道順を、大月駅を起点に案内すると、次のようになる。
JR大月駅前を国道20号線に向い、20号線を右折し甲府方面に進む。
中央高速道の大月ジャンクション入り口を過ぎ、大月警察署を右に見て、しばらく進むと信号のある三叉路 真木入口がある。この三叉路を右折し、真木市街地を直進すると、林道 真木・小金線にたどり着く。林道に入り、曲がりくねった坂道を北上すると、右方向は奈良子方面向かう分岐点にさしかかる。分岐点をやり過ごし、さらに北上すると大峠のゲートに至る。一般の車両は、この駐車場までなので、タクシーも、ここで下車。大月駅から、距離は約19km。
その先は徒歩で、群生地入り口まで約6kmある林道を歩く。
それから、ようやく観察路を歩くことになる。
タクシーは、大月駅~大峠間・片道 7千円から8千円。
時間はとなると、
大月駅~大峠間(タクシー)30分
大峠~長沢群生地入り口(徒歩) 1時間15分
長沢群生地観察路一周(徒歩)2時間~3時間
長沢群生地入り口~大峠(徒歩) 1時間45分
大峠~大月駅間(タクシー)30分
合計 6時間~7時間
眺望を期待する向きは、はなからやってはこない。
多少なりとも手つかずの自然に関心があっても、これほど時間も費用もかかるのでは、「うまみ」がないと判断されるのも、無理はない。天然林の森は、全国各地まだまだ残されている。小金沢シオジの森など、ほんとうにちっぽけな存在だ。
それでも、そんなちっぽけな森に、出かけてくる人もあるのだ。
なぜか。また、どんな方々か。
小金沢シオジの森でお会いした方に、観光登山ができる国内はもとより、海外の山も歩かれている人があった。それがどうして、シオジの森に?
人手のかかっていない自然が残された、地域の人々が心を寄せている、登山者の少ない山に魅かれているという。
また別な一人は、70歳代ながら現役の山岳ガイド。
在外公館勤務が長く、複数の外国語にも長けた方のよう。自然の在り方にも関心が深い。今でも、夏の富士山くらいなら単独行で山頂往復とのこと。勝手な推測だが、経歴からして砂漠の地での勤務期間が多く、それだけに日本の風土の残された自然の豊かさを、求めているかのようにもみえる。
おふたりばかりではなく、満足して帰られる来訪者の皆さんに、共通するシオジ群生地に寄せる思いとは何か。それは天然の広葉樹林の森の豊かさで寛げる喜び、あるいは安らぎといったようなものに、コスト・パフォーマンスなどという物差しでは測りきれない、大きな価値を見出しているからなのだろう。
(下澤直幸)
*写真提供は、「グループ 森からのおくりもの」
【小金沢シオジの森四方山話】 次回は、5月下旬に掲載予定