小金沢シオジの森で、初めてニホンカモシカを見かけたのは、2016年のことであった。
見つけたというより、出会ったという感じだ。
ニホンカモシカは、私たち人間が近づいても、ニホンシカのように逃げ出すことはない。そのうえ襲う気配すらまったくしない。3mほどの至近距離でも大丈夫。捕獲されないと、カモシカは知ってか知らずか、近寄ろうとする我々の姿を視野にとらえながら、餌を食んでいる。だから、こちらも近所にすむ顔なじみと、朝のあいさつを交わすようなあんばいで、ゆっくり慌てず騒がず、近寄ることにしている。もちろん、カモシカの気がかわって、こちらに向かって突進するかもしれぬリスクも、勘定に入れてのことではあるが。
シオジ森の学校開校以来、これまで小金沢シオジの森周辺では、カモシカを見たという情報は聞かなかった。また、足跡などの痕跡も確かめられてはいない。
それが、シオジの森の通い始めて10年、林道 真木小金沢林道を車で大峠から、しばらく進んだところで、なにやら大型の野生動物が動めいているのを発見。瞬時に浮かんだのは、ツキノワグマとイノシシだが、近づいてみると、なんとニホンカモシカ。
さっそく車を止め、降りることにする。
ご対面となるも、カモシカからは、緊張感など一つも感じない。小金沢シオジの森で、いろいろなほ乳類の動物を見てきたが、カモシカのように、来るもの拒まずの風情で、こちらをじっと眺めて動じない動物は初めてのことだ。
私たちがカモシカの姿を発見するのは、どうもいつも食事時らしい。
カモシカは、たえず口をもぐもぐと動かし、時おり林道わきの低木の木々の新芽や若葉を食む。
カモシカは、ウシの仲間なのだと知れば、これも納得。それでも、食事を済ませたのか、食事をじゃまされたせいなのか、突如、谷が深く急峻な斜面を、軽やかに跳ねるようにカモシカは駆け上がる。見事というほかはない。
カモシカは高山に住むとばかり思っていただけに、初めて出会った時は驚くばかりであった。
季節は、芽吹きから新緑の時期に限られる。また、あらわれるのはいつも一頭だけ。どうやらテリトリーがあるらしい。標高の高い地域に食料になる新芽や若葉が得られない時期に、私たちの視野に入る地域に降りてくるようだ。
それにしても、彼らはどれほどの範囲をテリトリーとしているのだろう。また、どこからやってきたのか。心配なのは、ニホンシカと同じように樹木の新芽や葉はもちろんのこと、樹皮にまで食害が及ぶとすれば、頭の痛いことである。すでに、近県にあっては、カモシカによる深刻な被害が報告されている。人懐っこいなどといってばかりいられない事情もあるのだ。
(下澤直幸)
*写真は高津秀俊氏撮影
【小金沢シオジの森四方山話】 次回は、4月上旬に掲載予定